フランス文学
ジュール・シュペルヴィエル
『ひとさらい』

- 作者:ジュール シュペルヴィエル
- 発売日: 2013/11/08
- メディア: 文庫
ひとつ屋根の下、自分の隣の部屋には非常に魅力的な血のつながりのないわが娘が鍵をかけずに眠りにつこうとしている。
それがどういう意味か、皆さん、おわかりになりますね? -ジュール・シュペルヴィエル『ひとさらい』(光文社古典新訳文庫)
見え見えな僕らの欲望
女性と違い、男性が「魅力を感じる異性の年齢」というのは、統計的に見て、人生のある時期からほぼ変わらない。まあ要するに大抵のおじさんはロリコンだってことだ。いやちょっと言い過ぎかもしれないが、でもついつい若い女性の方へ目線が向いてしまうってこと、あるでしょう。…ほら否めない。
しかし、おじさんはそれを必死に隠す。隠そうとする。関心ないよ、を装うのである。だが、バレバレなのだ。何度か妻に指摘された僕がいうのだから間違いない。笑。
あなたそれ、見え見えですよ。
キモい僕らの欲望
おじさんは常に葛藤している。横目でチラッと見てしまうから怪しまれるのかもしれないといって堂々と見たらそれはそれで下品であるし、かといって完全に無関心でいられるかと言ったらそれは到底無理なのである。じゃあどうしたらいいというのか。
世のおじさんたちは皆このように必死で悩んでいる。どんだけカッコいいこと言ったって、いくら仕事が出来る人だって、シュッとした身なりでお洒落にしてたって、みなそうなのである。本当に必死なのだ。なんかね、そういうとこに愛くるさを感じてくれるひとがいてもいいと思うんだけど、多分キモいと言われて終わりだろう。
シンパシーと擁護
『ひとさらい』のビグア大佐をキモいと感じないのは、それが純粋な愛だからなのか。単にビグア大佐自身が絶対的な善人だからなのか。違う。ただ同じおじさんとしてシンパシーを感じて、彼を擁護しているだけであった。
だから僕は思った。このジュール・シュペルヴィエルの『ひとさらい』という長編小説を是非世のおじさんたちに読んでほしいと。
欲望と理性の間。シュペルヴィエル的、詩と小説の間の美しくて哀しくて愛くるしいおじさんのお話。
(あくまで僕の偏見による)