ささやかな胡桃パン-海外文学と遊ぶ

主に『海外文学』と『読むこと書くこと』あれこれエッセイ

オススメ海外文学(作家編)①『ポールオースター』どちらかというと未読さんへオススメしたい3作品

私がこの本を書いたのは、ヘクターの作品に対する自分の熱狂を他人と分かちあいたかったからだ。   『幻影の書』(新潮文庫)より  

これはポールオースターの『幻影の書』という作品の中のある一節だけども、つまり何が言いたいかというと、「僕がこの記事を書いたのは、ポールオースターの作品に対する自分の熱狂を他人と分かちあいたかったからだ」ということである。

まあ「熱狂」というとやや大袈裟かもしれないけども、要は自分以外の人にも是非とも読んでみてほしいなと僕が思う「海外の作家」のおすすめ作品をちょっとまとめてみようかということで、それならまずはこの人『ポールオースター』を第一弾にと、誠に勝手ながら決めさせていただいたわけでございます。  


ポールオースターは1947年ニュージャージー州ニューアーク生まれのユダヤアメリカ人作家。現在はブルックリン在住。まあその辺はこちら(Wikipedia)におまかせしといて。  

     

ポールオースター 作品の魅力  

ポールオースターの小説の魅力は、その「懐の広さ」というところではないかと思っている(勿論それだけではない)。ポジティブもネガティブも何でも受け入れる姿勢というか、そういうアンビバレントな感情であったり、人間の行動の様々な矛盾や、この世界の不条理や理不尽というのをひとまず許容して、そのなかで誰もが持っているはずの生きる意味を見出していくというような。つまり「どんな世界でもどんな人間でも受け入れてくれる」という広い懐がオースターの小説にはあるのだ。

これは、アメリカという国自体の「懐の広さ」を考えれば、オースターの小説を読むことで「アメリカを体験」することができるとも言えるかもしれない。

「海外文学を読みたい」という欲と同様に、オースターの小説がアメリカ本国よりむしろヨーロッパや日本で読まれるのは、そういった「アメリカを体験」したいという欲を満たしてくれるからというのもひとつの要因ではないかと思う。

さてそんな、残酷だが優しく、絶望的状況の中にでもささやかな希望を見させてくれるポールオースターの小説。本当にみな良い作品たちの中で、どちらかと言えばまだ読んだことのない人にすすめたい作品を3つほど紹介する。


『ムーンパレス』(1989)  

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた…。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。(新潮社HPより)

ポールオースターと言えばコレ、という人は多い気がする。そして例にもれず僕も『ムーンパレス』信者である。主人公マーコが自身の青春時代を懐かしむ回想録であるが、そこには家族、恋愛、戦争、文学、野球、人種、自由など様々な要素が織り込まれている。これぞ「アメリカ」というスケールの大きさでありながら、「個」としての人間同士のささやかな交わりが生み出す細かなエピソードが非常に魅力的に語られる。

とはいえやはりこれは「青春小説」。読めばきっと自分の若かりし頃を思い出し苦笑いするに違いない。冒頭1ページ目の言葉を借りれば、「他人の心を通して自分を救う」ことを知るというのは、青春時代のひとつの大変革なのだ。  

『幻影の書』(2002)  

幻影の書 (新潮文庫)

幻影の書 (新潮文庫)

その男は死んでいたはずだった──。何十年も前、忽然と映画界から姿を消した監督にして俳優のへクター・マン。その妻からの手紙に「私」はとまどう。自身の妻子を飛行機事故で喪い、絶望の淵にあった「私」を救った無声映画こそが彼の作品だったのだから……。へクターは果たして生きているのか。そして、彼が消し去ろうとしている作品とは。深い感動を呼ぶ、著者の新たなる代表作。(新潮社HPより)

ポールオースターは小説の中にさらにもう一つ(あるいは二つ)の小説を書くというメタフィクション的な手法をよく使うんだけれども、この『幻影の書』では小説内映画というか、一貫したひとつのストーリーの中でまた別のストーリーを持つ映画を「言葉で描写」し、その世界観に深みを出している。

それがとても躍動感に溢れていて、その映画を実際に「観ている」ような気にさせられる。オースターの「言葉」に対する信頼がそこにはあって、その「言葉の力」に読者は魅了されるのである。同様に、この小説では主人公ジンマーがヘクター・マンという喜劇俳優の映画に魅了される。ヘクターの映画はジンマーが絶望の最中に偶然出会った生きる希望であった。そしてそこから再びジンマーの人生は始まる。

www.sasayakana-kurumipan.com

『闇の中の男』(2008)  

闇の中の男

闇の中の男

ある男が目を覚ますとそこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。代わりにアメリカ本土に内戦が起きている。闇の中に現れる物語が伝える真実。祖父と孫娘の間で語られる家族の秘密──9・11を思いがけない角度から照らし、全米各紙でオースターのベスト・ブック、年間のベスト・ブックと絶賛された、感動的長編。(新潮社HPより)  

もしあんなことがなかったら。後悔しても遅いとはわかっていても、それでも人は過去に引きずり込まれる。そんな痛ましく残酷な過去に苛まれる家族の物語。

残酷な現実というのは、何もこの小説の中だけの話ではなくそこら中に溢れていて、それら全てが自分とは決して無関係ではないのかもしれないと考えさせられる。世界はひとつではないが、それらはひとつひとつ密接に結びつくものなのだ。自分以外の世界を想像することの大切さをこの小説は教えてくれる。

オースターの他の作品に比べてシンプルで読みやすく、かついわゆる「オースター節」を感じれる作品だと思う。「最初はコレから」的にベストではないかと。     

ということで  

紹介したい作品は他にもあるが(てかほとんどがそう)、今回は「もし最初に読むとしたらコレ」かなというのを選んでみた。勿論そうではない人にもオススメできる作品である。ポールオースターは日本でも比較的多くの人に読まれている作家ではあるけども、出来ればもっと沢山の人に読んで欲しいなと思っている。  


因みに。オースター作品を色々読んでみて、もっと深く知りたいと思ったらこんな本もあるよ。 

ポール・オースター (現代作家ガイド)

ポール・オースター (現代作家ガイド)

↑インタビューがとても興味深い。  

MONKEY Vol.1 ◆ 青春のポール・オースター(柴田元幸責任編集)

MONKEY Vol.1 ◆ 青春のポール・オースター(柴田元幸責任編集)

  • 作者:柴田 元幸
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2013/10/07
  • メディア: 雑誌
↑翻訳家柴田元幸責任編集の雑誌『monkey』新創刊第一弾がポールオースター 。未完の小説の草稿、断片が読める。高橋源一郎氏とオースターの対談も。

どうぞ。